アマチュア無線とは?通信距離や特徴・業務用無線との違いを解説
無線と聞いて、「警察、救急・消防などの公的機関やバス・タクシーなどの運送業界で使用されているもの」とイメージする方は多くいるでしょう。しかし、無線とひとくちに言ってもさまざまな種類があり、中には個人の趣味用の無線も存在します。
個人用の無線は「アマチュア無線」と呼び、近年では個人の趣味の枠だけでなく災害ボランティアや無線通信技術の研究開発など、活躍の幅にさらなる広がりを見せていることも特徴です。
そこで今回は、アマチュア無線の概要から利用に必要な資格、通信距離や業務用無線との違いまでを詳しく説明します。
アマチュア無線とは
アマチュア無線とは、電波を使用する無線通信において、個人が趣味として楽しめる無線の種類です。金銭上の利益のため、いわゆる営利目的での利用は一切禁止されており、事業者や企業が業務に利用することはできません。
あくまでも趣味のための無線ではあるものの、電波を通して見知らぬ人々と交信できるという点に大きな魅力を感じる方は多く、世界中には数百万人以上の「アマチュア無線家」が存在するとさえ言われています。
近年では趣味の枠にとどまらず、アマチュア無線の強みを生かして災害ボランティア活動に用いられたり、無線技術や無線機器の研究開発に生かしたり、国際親善につなげたりと、活躍の幅はさらに広がっています。
アマチュア無線の利用には資格が必要
アマチュア無線はいわば個人用の無線ですが、個人なら誰もが利用できるわけではありません。アマチュア無線を利用するには、「アマチュア無線技士」の国家資格および「アマチュア無線局免許」が必要です。
アマチュア無線技士の資格には、第4級~第1級まで4つのクラスが存在します。各クラスの操作範囲や資格の取得方法は、下記の通りです。
資格名 操作できる範囲 資格の取得方法 第4級アマチュア無線技士 アマチュア無線局の無線設備で次に掲げるものの操作(モールス符号による通信を除く)
1 空中線電力10W以下の無線設備で21メガヘルツから30メガヘルツまでまたは8メガヘルツ以下の周波数の電波を使用するもの
2 空中線電力20W以下の無線設備で30メガヘルツを超える周波数の電波を使用するもの
●(財)日本無線協会が開催する第4級アマチュア無線技士国家試験を受験し合格する。
●JARD(一般財団法人日本アマチュア無線振興協会) または QCQ企画 その他が主催する講習会を受講して、修了試験に合格する。
第3級アマチュア無線技士 アマチュア無線局の空中線電力50W以下の無線設備で18メガヘルツ以上または8メガヘルツ以下の周波数の電波を使用するものの操作 ●(財)日本無線協会が開催する第3級アマチュア無線技士国家試験を受験し合格する。
●現在、第4級アマチュア無線技士の資格をお持ちの方は、JARD(一般財団法人日本アマチュア無線振興協会) または QCQ企画 その他が主催する養成課程講習会第3級短縮コースを受講して修了試験に合格する。
●JARDが開催するeラーニングを受講し修了試験に合格する。
第2級アマチュア無線技士 アマチュア無線局の空中線電力200W以下の無線設備の操作
●(財)日本無線協会が年に3回(4月、8月、12月)開催している第2級アマチュア無線技士国家試験を受験し合格する。
●JARD(一般財団法人日本アマチュア無線振興協会)が開催するeラーニングを受講し修了試験に合格する。
第1級アマチュア無線技士 アマチュア無線局の無線設備の操作 ●(財)日本無線協会が年に3回(4月、8月、12月)開催している第1級アマチュア無線技士国家試験を受験し合格する。
引用:日本アマチュア無線連盟「アマチュア無線を楽しむための資格」引用日2023/12/3
上記4つのクラスのうち、どれを取得してもアマチュア無線局の開局申請に必要な要件を満たせます。ただし、資格の数字が大きくなるほど、扱える無線機が限られることを覚えておきましょう。
第1級アマチュア無線技士は、アマチュア無線局におけるすべての無線操作が可能となる一方で、その分専門知識も必要となり難易度も非常に高くなります。
なお、必ずしも第4級アマチュア無線技士から段階的な資格取得を目指さなければならないわけではありません。最初から第3級アマチュア無線技士を目指したり、第4級アマチュア無線技士を取得してから第2級アマチュア無線技士に飛び級したりすることも可能です。
アマチュア無線機の通信距離
アマチュア無線用の無線機は、保有資格によって扱える出力が異なります。無線機の出力によっても通信性能は異なるため、一概に「通信距離はこれくらい」とは言えません。
しかし、アマチュア無線機の通信は基本的に長距離なことが特徴です。機種や使用するアンテナ、さらに通信場所によっても左右されるものの、出力が高いアマチュア無線機の場合は数百kmにも及ぶ通信が期待できるでしょう。
なお、アマチュア無線機は通信エリア内にいる複数のユーザーと通話が可能です。日本全国だけでなく、海外にいる知らない人々とのコミュニケーションがとれる点は、アマチュア無線ならではの大きな魅力と言えるでしょう。
アマチュア無線と業務用無線の違い
個人用のアマチュア無線に対して、主として業務で用いられる無線を「業務用無線(業務無線)」と呼びます。業務用無線に利用できる無線機の代表的な機種は、下記の通りです。
- 一般業務用無線機
- 業務用簡易無線機
- 特定小電力トランシーバー
- IP無線機
中でも、業務用簡易無線機は比較的通信エリアが広く、業務用無線機従事者免許を保有していない方でも使用できます。多くの事業者が集まる全国の各種大型イベント会場などでは特に重宝されており、「簡易無線機」「簡易業務用無線機」とも呼ばれています。
なお、下記の記事では業務用無線に利用できる無線機についてより詳しく説明しているため、ぜひ併せてご覧ください。
業務用無線にはアマチュア無線用の無線機は使用できず、専用の無線機を使用することとなります。このように、アマチュア無線と業務用無線とでは多くの違いがあるため、アマチュア無線機を探す方・業務用無線機を探す方はあらかじめ理解しておきましょう。
ここからは、アマチュア無線と業務用無線の大きな違いについて、分かりやすく説明します。
アマチュア無線機は仕事に使えない
アマチュア無線は個人の趣味として楽しめる無線の種類であり、営利目的・業務目的での利用は不可能となっています。趣味としてのコミュニケーションやボランティアをはじめとした社会貢献活動であれば利用できるものの、仕事には一切利用できません。
一方で、業務用無線は主として企業や事業者による利用を前提とした無線であることから、営利目的での利用や業務利用が可能です。また、業務用無線は「一般業務用無線」「防災無線」「航空無線」など業務用途によって分類され、多くの企業が業務用無線機を使用しても混信が起こらないよう工夫されています。
一部の業務用無線機は資格不要で使用できる
アマチュア無線用の無線機を使用する場合は、アマチュア無線技士資格とアマチュア無線局の開局が必須です。業務用無線による無線機を使用する場合においても、用途に応じた無線従事者資格が必要となるケースは多いものの、一部の業務用無線機は使用にあたって資格・免許は不要となります。
資格・免許が不要な業務用無線機には、「デジタル簡易無線局における登録局の業務用簡易無線機」や「特定小電力トランシーバー」、さらに「IP無線機」が挙げられます。
登録局の業務用簡易無線機は、無線従事者資格や免許が不要である一方で、無線局の登録手続きが必要です。しかし、「レントシーバー」のようなレンタル業者を利用する場合、ユーザーは利用申し込みをするだけでよく、煩わしい手続きなく業務用簡易無線機の使用を開始できます。
なお、特定小電力トランシーバーやIP無線機は、無線局の登録手続きは必要ありません。
業務用無線機とアマチュア無線機は通信距離が違う
業務用無線機とアマチュア無線機とでは、通信距離に大きな違いがあります。下記は、アマチュア無線機・特定小電力トランシーバー・業務用簡易無線機・IP無線機の主な通信距離です。
アマチュア無線機 | 数km~数百km |
---|---|
特定小電力トランシーバー | 100m~200m |
業務用簡易無線機 | 1km~4km |
IP無線機 | 国内の携帯電話が通信可能な範囲内 |
アマチュア無線用の無線機は、無線機の出力や利用アンテナ、通信場所によっても異なるものの、基本的に長距離通信が可能な傾向にあります。
一方で、業務用無線機において特定小電力トランシーバーは100m~200m、業務用簡易無線機でも1km~4kmと、アマチュア無線機と比較して全体的に通信距離が短いことが特徴です。
なお、IP無線機はキャリアの通信網を利用するため、国内の携帯電話が通信可能な範囲内であればどこでも通信できます。
まとめ
「無線は事業者や企業・団体などが業務に利用するもの」というイメージを持つ方もいますが、個人が趣味として楽しむための無線も存在します。アマチュア無線は、営利目的での利用や業務利用が禁止されている無線です。また、個人の趣味だけでなく災害ボランティアをはじめとした社会貢献活動などでもアマチュア無線は利用できます。
アマチュア無線と業務用無線の大きな違いは、「用途」や「無線機の使用にあたって必要となる資格・免許」、さらに「通信距離」にあります。アマチュア無線機は業務に使用できないため、仕事で無線機を活用したいという方は資格・免許、さらに無線局への煩わしい登録手続きが不要な機種の業務用無線機を使用するとよいでしょう。