災害に強い通信手段とは?IP無線機・衛星電話のメリットを解説
東日本大震災の際には、情報通信インフラにも甚大な被害が発生しました。
具体的には、地震や津波の影響により、通信ビル内の設備や地下ケーブル、電柱、架空ケーブルなどが、倒壊・損壊・水没などの被害に遭いました。その結果、約190万回線の通信回線の被災や、約2万9千局の基地局が停止しています。
そのような災害の際にも、接続しやすい通信手段として知られているのが、IP無線機と衛星電話です。当記事では、IP無線機と衛星電話が災害時に便利な理由や、それぞれのメリット・デメリットについて分かりやすく紹介します。
災害が起きると電話はつながらなくなる
災害時は、救援・復旧・公共の秩序維持のために、一般の電話はつながりにくくなります。これは、災害時優先通信と呼ばれるもので、電気通信事業法などに基づき、優先電話の発信・接続が優先される仕組みです。大規模災害時の場合、輻輳(ふくそう)を避けるために、一般の電話は約90%以上の制限を受ける場合があります。
ただし、優先電話は発信が優先されるものの、必ずしも通話が保証されるわけではありません。また、着信は通常電話と同じ扱いとなります。
総務省は、災害時の通信手段として優先電話だけに頼るのではなく、衛星電話や専用線、自営無線などのほかの通信手段も活用することを推奨しています。
出典:総務省「災害時優先通信」
BCP対策にはIP無線機と衛星電話が便利
BCP対策として、災害が起きた際にも安定して通話できる通信手段を用意しておきたい企業も多いのではないでしょうか。災害時の通信手段として、携帯電話回線を利用してパケット通信を行うIP無線機と、衛星を通じて通信を行う衛星電話があります。
IP無線機は、インターネットプロトコル(IP)を利用し、音声データをパケットデータに変換して通信する無線機の1つです。従来のアナログ無線機やデジタル無線機とは異なり、IP無線機は携帯電話会社の通信網を活用しているため、国内の携帯電話が通信できる範囲であればどこでも通信が可能です。
実際に、東日本大震災において、パケット通信による輻輳の発生率は低かったという事実があります。
●携帯電話輻そう時の回線交換・パケットの独立制御
携帯電話事業者によっては、音声とパケットを独立して制御したり、音声とパケットを別々のネットワークとするなど、災害時等におけるパケット通信の疎通を向上できる機能を導入している。今回の震災においても、各事業者において、この機能が活かされ、最大95%程度の発信規制がなされた回線交換と比べると、メール等のパケット通信の方が疎通しやすい結果となった。
引用:総務省「東日本大震災における情報通信の状況」/引用日2023/10/15
衛星を通じて直接通信を行う衛星電話も、災害時の通信に役立つ手段の1つです。地上のインフラに依存せず、広範囲での通話が可能です。東日本大震災においても、衛星通信が通信手段として多く利用されました。
IP無線機を利用するメリットとデメリット
IP無線機は、専用の周波数を使うのではなく、Wi-Fiや携帯電話のデータ回線を介して広い範囲での通信が実現できます。以下では、IP無線機を災害のときに使うメリットとデメリットを紹介します。
IP無線機を災害のときに使うメリット
IP無線機を災害のときに使う主なメリットは、以下の通りです。
通信範囲が広い |
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IP無線機は、通信範囲が広いのが特徴です。たとえば、簡易無線は1~4km、特定小電力トランシーバーは100~200mが通話圏内ですが、IP無線機の場合は、電話がつながる場所であれば基本的に全国どこでも通話することが可能です。障害物の有無にかかわらず、安定した通信ができるのは大きなメリットでしょう。 |
混信や輻輳に強い |
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IP無線機は、携帯電話会社の回線を利用し、音声をパケット化して送受信を行います。この方法は、混信や輻輳が発生しにくいため、災害時でも連絡が取りやすいメリットがあります。 |
GPS機能を搭載している |
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IP無線機は、多くの機種でGPS機能を搭載しています。災害時においては、発信者の位置情報が分かることで、安全状況の確認や現場職員の動向を確認しやすくなります。 |
IP無線機を災害のときに使うデメリット
IP無線機を災害のときに使う主なデメリットや注意点は、以下の通りです。
山間部など携帯電話の通信範囲外では使えない |
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IP無線機は、インターネットがつながる環境下で使える通信方法です。携帯キャリアの通信がつながらない過疎地や山間部、山岳部などではIP無線機の通信もできません。 |
通信網が寸断される大災害では使えなくなる恐れがある |
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インターネットサービスプロバイダーやデータセンターは、障害時でも通信が継続できるよう、複数の経路を保有して運用を行っています。そのため、災害によってインターネットが全断される可能性は低いと考えられています。 しかし、海底ケーブルが大きな被害を受けた場合や、インターネットサービスプロバイダーやデータセンターが回線障害を受けて孤立してしまった場合などは、パケット通信も一時的に使えなくなる恐れがあります。 |
衛星電話を利用するメリットとデメリット
衛星電話は、地上の通信インフラを使用するのではなく、宇宙上にある衛星を中継点として通信を行う機器です。以下では、衛星電話を災害のときに使うメリットとデメリットを紹介します。
衛星電話を災害のときに使うメリット
衛星電話を災害のときに使う主なメリットは、以下の通りです。
地上の通信インフラが破壊されても利用できる |
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災害時に、仮に地上の通信インフラが利用できなくなった状況でも、衛星が利用できる環境であれば通話やデータ通信が可能です。衛星を管制している基地局は複数存在するほか、そもそも衛星は宇宙上にあるため、災害に強いのが特徴です。 このことから、災害医療の現場(災害拠点病院や災害派遣医療チーム(DMAT)など)でも、衛星電話が活用されています。 |
場所を選ばず通信ができる |
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過疎地域や山の中、船上など、通常の通信手段が届かない場所でも、衛星電話は利用できます。また、地球上のどこからでも通話が可能であるため、発展途上国などインフラが整備されていないような国・地域での通信手段としても利用されています。 |
GPS機能を搭載している |
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衛星インターネットを使用すると、画像やGPSによる位置情報を簡単に伝送できます。これにより、防災地理情報システム(防災GIS)などと連携して、被災情報を視覚的・面的に整理できます。 また、衛星インターネットを通じて受信したデータ(画像、数値など)は、複製や加工が容易です。これにより、情報の対応・処理・整理が迅速に行えます。さらに、インターネット上の情報は音声とは異なり、記録性や保存性に優れているため、長期的に情報を保存・参照できます。また、視認性・視覚性も高く、情報の理解や共有が効率的に行えます。 |
衛星電話を災害のときに使うデメリット
衛星電話を災害のときに使う主なデメリットや注意点は、以下の通りです。
屋内にいる場合や豪雨などの場合、使用しにくくなる |
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衛星電話は直進性の電波を使用しています。電波が一直線に飛ぶ特性を持っているため、端末と人工衛星の間に何も遮るものがない場合が最も良好な通信状態となります。もし建物、山、木などの遮蔽物が端末と人工衛星の間に存在すると、電波がこれらの物体に遮られ、通信が不安定になったり、完全に途絶えたりする恐れがあります。 また、KuバンドやKaバンドといった高い周波数帯を使用する衛星インターネットは、降雨減衰(雨による電波の減衰)の影響を受けやすい点がデメリットです。これは、雨粒が電波の進行を妨げ、通信の品質を低下させるためです。特に豪雨の際には、これらの周波数帯を使用する通信が困難になる場合があります。一方で、LバンドやSバンドといった低い周波数帯を使用する衛星インターネットは、降雨減衰の影響をほとんど受けません。 |
使用の際には慣れが必要になる |
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衛星電話は、固定電話や携帯電話とは異なり、使用方法が以下のようにやや特殊です。
特に発信方法は衛星携帯電話から衛星携帯電話にかける場合や、衛星携帯電話から固定電話・携帯電話にかける場合で、先頭につける番号も異なり、やや複雑です。いざ災害が起きた際にも迅速に使いこなすために、あらかじめマニュアルを整備したり、対象者向けに定期的な研修を行ったりすることが好ましいでしょう。 |
まとめ
災害に強い通信手段として、IP無線機と衛星電話が挙げられます。特に、IP無線機はLTEトランシーバー(LTE無線機)とも呼ばれており、国内の携帯電話がつながる場所であれば、基本的にどれだけ離れていても会話・通信が可能です。また、同時通話にも対応・混信の心配がないといったメリットもあります。
衛星電話と比較するとIP無線機は操作も簡単で、初めて使う人も直感的に利用しやすい特徴があります。企業のBCP対策の一環として、災害時における連絡手段を確保したいと考える場合は、IP無線機や衛星電話の導入を検討してみてはいかがでしょうか。