同時通話無線機とは|仕組みや携帯電話との違い・メリットを解説
通常の無線機では、Push to Talk(PTT)という、ユーザーがボタンを押すことで話ができるシステムが採用されています。このシステムでは1つの周波数帯を使っているため、相手が話しているときは、自分は受信のみしかできません。
一方で、同時通話無線機は送信と受信が異なる周波数帯で行われるクロスバンド方式を利用しています。よって、2つの端末で同時にお互いに話すことが可能です。
当記事では、同時通話無線機の仕組みやメリット・デメリットなどについて解説します。
同時通話無線機の仕組み
同時通話無線機は、通信の際に送信と受信が同時に行える無線機のことを指します。
これは複信方式の通信(※)を可能にする装置で、一般的な単信方式(※)の無線機と異なり、一方が話している最中でも、もう一方が同時に話すことができます。よって、無線機でありながら電話のようなイメージで、双方向のコミュニケーションが可能です。(※複信方式、単信方式については、後述)
一般的な無線機の通信方式
無線機やトランシーバーにおける一般的な通信方式はPush to Talk(PTT)です。PTTとは、ユーザーが通信を行いたいときにボタンを押すことで、無線機が送信モードに切り替わり、会話できる機能です。ボタンを放すと、無線機は受信モードに戻ります。この方式は、従来の無線機で広く利用されています。
PTTのような一度に一方向へのみ通信が可能な通信方式は、単信方式と呼ばれます。単信方式とは、通信システムにおいて送信と受信が同時には行われず、一方向にのみデータが流れる通信方式です。つまり1人が話している間は、ほかの人はリスニングモードになります。
- (送信)デバイスA
- →→
- デバイスB(受信)
- (受信)デバイスA
- ←←
- デバイスB(送信)
※送受信を同時に行うことはできない
一方で、複信方式は、通信システムにおいて、同時に両方向のデータ転送が可能な通信方式です。これは、送信と受信が同時に行えるのを意味しており、たとえば電話の会話のように、一方の参加者が話している間も、もう一方の参加者が同時に話すことができます。
- (送信)デバイスA
(受信)デバイスA - →→
←← - デバイスB(受信)
デバイスB(送信)
同時通話無線機と携帯電話の違い
同時通話無線機と携帯電話の主な違いは、以下の通りです。
同時通話無線機 | 携帯電話 | |
---|---|---|
通話人数 | 複数人と通話できる | 原則1対1での通話になる |
通信エリア | 機種により異なる | 携帯電話の圏内ならどこでも通話できる |
操作方法 | ハンズフリー方式(PTT方式での通話が可能な機種もあり) | 送信側は番号入力の必要がある 受信側も操作が必要になる |
災害時の通信規制 | 基本的にない | 輻輳防止のため規制されるケースがある |
そもそも同時通話無線機と携帯電話では、開発の目的が異なります。同時通話無線機は、通常、ユーザーが即座に音声通信を開始できるように設計されています。緊急時など迅速な対応が求められる場面や、作業しながらのコミュニケーションがしたい場面などで有用です。一方の携帯電話では、通話を開始する前に番号をダイヤルする必要があり、一般的な通信手段として適しています。
同時通話無線機のメリットとデメリット
続いて、同時通話無線機のメリットとデメリットをいくつか紹介します。通常の無線機とはまた違った特徴があるので、導入を検討している方はぜひ参考にしてください。
同時通話無線機のメリット
同時通話無線機の主なメリットは、下記の通りです。
- PTT方式の一般的な無線機と違い、相手が話していても自分も割り込んで話すことができ、双方向のコミュニケーションが取れる
- ハンズフリー方式の同時通話無線機では、ボタンを押す手間がなく、両手がふさがらない
同時通話無線機では「クロスバンド方式」が用いられます。クロスバンド方式では、送信と受信で異なる周波数帯を使用します。つまり、一方の端末がある周波数で送信している間、もう一方の端末は異なる周波数で受信を行い、その逆もまた同様です。クロスバンド方式では、送受信ごとにチャンネルが切り替わるようになっているため、双方向の会話が簡単に行えます。
同時通話無線機のデメリット
同時通話無線機の主なデメリットは、下記の通りです。
- クロスバンド方式に対応している機種が少ない
- 特定小電力無線機(特定小電力トランシーバー)やIP無線機など、無線局に限られている
- 本体価格が高くなりやすい
同時通話無線機は、まだ機種がそこまで多くないのが現状です。また、特定小電力トランシーバーの場合は、通信距離が短くなりやすい点にも注意が必要です。
※すべての特定小電力トランシーバーが同時通話に対応しているわけではありません。
同時通話ができる無線機の種類
同時通話に対応している無線機は、同時通話型トランシーバーとIP無線機であり、通信距離や送信出力などがそれぞれ異なります。以下では、同時通話型トランシーバーとIP無線機の特徴を解説します。
同時通話型トランシーバー
同時通話型トランシーバーとは、同時通話機能がある特定小電力トランシーバーのことを指します。特定小電力トランシーバーは、主に短距離での通信に適しており、非常に低い出力(小電力)で動作するハンディタイプのトランシーバーです。また、免許申請が不要で手軽に使えるのが特徴です。
400MHz帯の特定小電力トランシーバーで同時通話をする場合、1mWのみ連続通信ができ、10mWは3分で通信が切れるよう電波法で定められています。
出典:総務省「電波法施行規則」
IP無線機
IP無線機は、インターネットプロトコル(Internet Protocol:IP)を利用して無線通信を行うデバイスです。従来のアナログやデジタル無線機とは異なり、IP無線機はインターネットや携帯電話のネットワークを通じて音声やデータを送受信します。
従来の無線通信の地理的な制限を超え、国内の通信キャリアがカバーするエリアであれば、基本的にどこでも通信が可能なのが大きな利点です。
また、大人数での多重通話もできるので、情報の伝達がよりスムーズに行えます。
同時通話無線機が役立つシーン
同時通話無線機が役立つシーンは、以下のようにさまざまです。
【例1】建設現場・工事現場
作業員がクレーンなどの機械を操作しながらでも、ハンズフリーで、ほかの作業員とコミュニケーションが行えます。土木工事や電気設備工事などでも活用できるでしょう。
【例2】生産ライン
作業員が両手を使った作業をしながらでも、ほかの担当者と連携を取りながら作業を進めることが可能です。
【例3】レジャー活動
たとえば登山やスキー、ツーリングなどのグループで行うアウトドアスポーツで、参加者同士がリアルタイムで情報を共有し、安全を確保するためにも役立ちます。また、スポーツの場面では審判間でのやり取りにも活用できます。
【例4】ドローンの操縦
操縦者が視覚をドローンに集中させつつ、同時にほかの操縦者との間で情報を交換するのに使えます。
同じ双方向のやり取りでも、スマートフォンでは受信するためにタップする動作が必要になるでしょう。同時通話無線機であれば、両手がふさがりやすい場面でも、楽に双方向のコミュニケーションを取れるため、上記のような場面では使い勝手がよいと言えます。
まとめ
同時通話無線機は、送受信の切り替えを自動で行うため、ユーザーは特別な操作をすることなく、スムーズに双方向の会話を行えます。相手が話している最中でも同時に話せるので、緊急時での連絡も迅速に行えるメリットがあります。
一方で、同時通話型トランシーバーの場合は電波法により出力が1mW以下の機種でなければ連続通信ができず、通信距離がやや短い傾向です。そのため、特定小電力トランシーバーを利用される際には、用途に合わせて、通常のPTT方式を利用した無線機と、同時通話無線機を使い分けることをおすすめします。